香りを究めたネオ・ティーパウダー「いちりんか」が誕生。サントリー開発者が語る、11年に及ぶ挑戦の裏側

お茶の魅力はいろいろ。コクのある旨み、やわらかな甘み、ほどよい苦味……なかでも「香り」に魅力を感じている方は多いでしょう。
2024年12月末、“香り”を究めた6種類の日本茶が愉しめるネオ・ティーパウダー「いちりんか」が「サントリー」から発売されました。
なによりも“香り”にこだわった結果、たどり着いたのは「パウダー」のお茶。お湯をさっと注ぐだけで、本格的なお茶の香りと味わいが楽しめ、そのクオリティは日本で27名しかいない「茶師十段」や、ミシュランガイドで評価された星付きレストランも高く評価するほど。

「”いちりんか”が、日本茶の魅力に目覚める入り口になるように」。
そう願い、開発を進めた11年の歳月には、どのようなストーリーがあったのでしょうか。開発者本人に、その裏側を伺います。

香りがふわり、花ひらく「ネオ・ティーパウダー」

日本茶の複雑で豊かな香りを愉しめる「いちりんか」。全国の産地から選び抜いた茶葉を原材料に、「サントリー」のテクノロジーとサイエンスを掛け合わせたスティックタイプの「ネオ・ティーパウダー」です。

箔押しが光るシンプルな箱の中に、全部で6種類のお茶のパウダーが入っています。
緑茶やほうじ茶といった定番のバリエーションではなく、『香りふくよか』(新緑の森のような爽やかな香り)、『香りうるわし』(蜜を思わせる甘い香り)、『香り華々し』(花屋で感じる爽やかで華やかな香り)など、香りの個性がわかるようにネーミングされ、全種類がいちりんか独自の香味を目指してつくられました。

つくり方は簡単です。好きな香りのパウダーを器に入れ、お湯(または水)を100mlほど注ぎ、軽く混ぜるだけ。お湯を注いだ瞬間に広がる、パウダーに閉じ込められていた上質なお茶の香り。個性がはっきりと感じとれる鮮明な香りです。

一口飲めば、洗練された優しい味わいとともに、再び香りが口の中で広がります。鮮やかで美しいお茶の色は、原材料の茶葉からもたらされた “天然の色” なのだそう。
飲み終わったあとの残り香にもうっとり。
小分けのパウダーのため、面倒な後片付けや鮮度の劣化を心配する必要もありません。
「なにげなく生けられた一輪の花のように、心に潤いと、ときめきをもたらしたい」との想いで名付けられた「いちりんか」。多忙な日々のなかに癒しを求める現代のライフスタイルにぴったりの、革新的な日本茶です。

全国のお茶屋や茶農家を訪ね、導き出した一つの答え

日本茶の研究を長年行ってきた「サントリー」。その中で、「まったく新しい、驚きのある日本茶を生み出せないか?」という挑戦が11年もの間続けられていました。
「いちりんか」の開発者である、サントリーホールディングス株式会社 ものづくりCoE本部の浜場 大周さん(右)と、中嶋 大さん(左)。二人を含めた「いちりんか」の開発チームには、日本茶への情熱を持つ技術者や、お茶のプロ「日本茶インストラクター」の資格所有者も在籍しています。

そんな「いちりんか」の開発は2013年にスタートしました。
「まずは “おいしい日本茶とはなにか?”という原点から自分たちなりの答えを見つけようと、全国の日本茶のプロの元を訪ねました」(浜場さん)

静岡や鹿児島などのお茶屋や茶農家を巡り、お茶づくりのこだわりを聞き、おいしいお茶とはなにか?を熱く議論する日々。商品づくりのための知識を得るだけではなく、茶文化の尊さ、業界の厳しい現状、伝統を守るために革新的な動きが必要であることなど、浜場さんたちは多くの気づきを持ち帰ります。いつしか、飲んだお茶の数は1,000種類以上に。
そのような日々を経て、一体どんな答えにたどり着いたのでしょう。

「青香・花香・火香といった、お茶がもつ “香り” の重要性に気づくことができました。香りは飲む人にインパクトを与えられ、おいしいものだとわかりやすく伝えられる要素だと考え、“香り” をいちりんかの最大の特徴にしようと決めました」(浜場さん)

香りを第一に考え、着目したのは「パウダー」でした。
「パウダーは水分がほとんどないため、おいしさを長期間保つことができます。そして、溶かすだけで飲める手軽さが魅力で、誰がつくっても味わいを一定に保つことができます。持ち運びも簡単で、シーンや気分に合わせてさまざまな使い方ができるんですよね。そんなパウダーのお茶であれば、日本茶の魅力的な香りをより多くの方に届けることができると考えました」と浜場さん。

しかし、“香りの開発”は、実はとても難しいのだと浜場さんは付け加えます。

「難しい理由は2つあります。1つは、味に比べて香りは非常にたくさんの成分数で構成されていて、理想の香りにたどり着くのは容易ではありません。特にお茶の香りは150〜200種類もの成分があり、それらが複合的に絡み合っていてより難易度が高いんです。そして、もう1つは熱に弱いこと。製造工程では必ず熱の影響を受けるのですが、そのときに香りの性質が変化してしまい、本来の香りが残らないんです」(浜場さん)

難点があるにも関わらず、なぜパウダーを選んだのでしょうか。
「より多くの方に日本茶の魅力を届けるために重要なのは、“本物の香り”と“手軽さ”。一見、相反するこの2つの要素を両立させるには、パウダーという選択肢しかないと確信していたからです」(浜場さん)

出口の見えない日々。心の支えは……

「いちりんか」の製品化に向けて、サントリーの研究所では、お茶の拝見(鑑定)に使われる道具や、高さ十数メートルの巨大設備などを使っての開発・検証が連日続きました。

「開発では、香りの生成メカニズムまで踏み込み、官能評価と試作を繰り返し、ターゲットとする香気成分を設定しました。ただ、その成分があるだけでおいしさというものができるわけではなく、全体のバランスが重要なんです。研究所で単一の香気成分の挙動を追っかけるというよりも、実際にモノを作って評価するということを重視しました。そのため毎回数十キロ単位で大量の原料を用意して、汗をかきながら一日がかりで検証に取り組むこともありました。夏場には『痩せた?』とメンバー同士で苦笑することもありましたよ」と中嶋さん。

なにかを試しては振り出しに戻る日々に、もどかしさを感じることもあったこともあったでしょう。そんな時に心の支えにしていたのは、過去の体験でした。

「忘れられないお茶の原体験があります。お茶のことをまだ何も知らない入社1年目に訪れた京都のお茶屋さんで、目の前で丁寧に淹れてもらった一杯を飲み、そのおいしさと香りに感動しました。たった一杯の日本茶で世界が変わる、自分が味わったこの感覚をみなさんにも届けたい一心でした」(浜場さん)

ついに誕生。香りを最大限に引き出す「香り4段製法」とは

試行錯誤の末、日本茶の香りを、魅力的な状態で届ける新技術が誕生しました。
「サントリー」がこれまで酒類や飲料の開発を通じて培ってきた、蒸溜やろ過などの技術を応用することで実現した「香り4段製法」と呼ばれるものです。
「香り4段製法」はまず、全国から収集した1,000種類以上の茶葉から狙いとする香りを持った茶葉を厳選。香りのポテンシャルを最大化するために火入れ条件を調節し、蒸溜等の抽出技術によって香りを引き出します。

次に、香りがよりクリアに感じられるように、雑味や余分な香りを除去。その香りが、お湯を注ぐ瞬間まで逃げ出さないようパウダーの中に封じ込めます。
最後に、特徴的な香味を持つ何種類かのパウダーをブレンドして「いちりんか」に仕上げていきます。

「この香り4段製法は、パウダーであるいちりんかのためにゼロから開発した新技術です。これまでの飲料開発では生まれ得なかった、この技術が誕生したからこそ、いちりんかの最大の魅力である香りをお客さまにお届けすることができるのです」(中嶋さん)


この製法に加え、大前提として、”茶葉に余計な負担をかけないこと”が全工程で心がけられています。その背景には、「サントリー」のものづくりにかける精神があります。

「弊社の研究開発で掲げる方針の一つに、 “自然の恵みからサイエンスとテクノロジーで新価値を生み出す”ことがあります。自然の恵みである茶葉を、まずはなによりも大切にする。その姿勢がいちりんかの中にも詰まっています」(中嶋さん)

かくして、日本茶の魅力的な香りを楽しめる、新感覚の日本茶が誕生しました。

販売から接客まで、研究者が「ぜんぶやる」

「いちりんか」は誕生してからこれまで、大手百貨店を中心にポップアップイベントをひらき、商品の販売を行なってきました。
そこには、なんと浜場さんをはじめとする開発メンバーたちの姿が。
実は「いちりんか」は、ブランド・コンセプト設計からデザイン、ネーミング、ポップアップショップでの販売・接客まで、すべてを開発者たち自身が一貫して行っているのです。

「本来であれば、企画部門、販売部門、開発部門とそれぞれの機能ごとで役割が分断しますが、私たちは川上から川下まで自分たちが担当しています。社内外の有識者に臆せず積極的に話を持ち掛け、「おもしろい!」と思った人たちが集まり、開発者主体となって進めています。だからこそ、一つ一つのステップにおいて責任と意義を感じます。そうすることで、いちりんかという商品を通じて日本茶の魅力をお客さまに届けることができているのか、体当たりで確かめることができるんです」(中嶋さん) 

研究所を飛び出て、「いちりんか」の売り場へ。浜場さんたちにはどんな発見があったのでしょうか。
「正直なところ、はじめは私たちの想いが伝わるのだろうか……と不安もありました。ですが、いちりんかを飲んだお客さまの表情がぱっと明るくなって、なにこの香り!おいしい!と喜んでくださる姿に心が救われました。あと、お茶の色がきれい!という声が多かったのも意外な発見でした。新たな価値を、お客さまに教えてもらいました」(浜場さん)

「今までコーヒーを嗜んでいたけど、コーヒーばかりだと体に負担がかかってしまうので、代わりにいちりんかを飲もうと15箱も一気に買ってくださったお客さまもいました。びっくりしましたが、純粋に嬉しかったですね。開発者としてはありえない挑戦をさせてもらっているので、しんどいことも多いですけど、おもしろみがあって楽しいですよ」(中嶋さん)

「いちりんか」は香りが特徴的なので、その日の体調や気分に合わせて好きな「いちりんか」を選んで飲むのはもちろん、来客へのもてなしや友達・家族と過ごすときに“どの香りが好き?”といった話題づくりにもしてほしいと言います。

「私は先日、クロワッサンと一緒に『香りふくよか』を飲んでみました。すっきりしていて、クロワッサンによく合うんです。皆さんも日本茶のイメージにとらわれず、パンや洋菓子など、いろいろなペアリングを試してみてください」(浜場さん)

「いちりんか」のアンテナショップ&カフェを大阪にオープン

2025年4月には、「いちりんか」の世界を体験できるアンテナショップ&カフェ「日本茶のお店 いちりんかの扉」が大阪・心斎橋にオープンしました。

1階には物販コーナーとカフェスペースがあり、物販コーナーでは「いちりんか」を1本単体で販売し、「いちりんか6種アソート」や「いちりんかギフトセット(18本セット)」などを取り揃えています。
カフェスペースでは、「いちりんか」の飲み比べ(好きな香り3種)が楽しめます。
また、単品でのドリンク注文も可能。HOTとICEがあるので、その日の気分に合わせて選ぶことができます。ICEドリンクはテイクアウトにも対応し、サイズはレギュラーとラージの2種類を販売しています。

2階はイベントスペースになっており、「いちりんか」をブレンドしてオリジナルのティーパウダーが作れるワークショップなどを開催しています。

本物の香りと味わいを、手軽に楽しめるネオ・ティーパウダー「いちりんか」。その裏側で日本茶への情熱を燃やす開発者たち。11年の歳月を経て生まれた一杯は、お茶好きの私たちにどんな驚きをもたらしてくれるのでしょうか。
ぜひこれまでに出会ったお茶との違いを、体感してみてください。

取材・文=市原侑依

※記事中の数字・情報は2025年5月時点のものです

いちりんか Instagram
https://www.instagram.com/ichirinka.neotea


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