龍騎士団茶舗のお役立ち日本茶コラム【日本茶を駆る Vol.2 〜日本のお茶産地〜】

京都を拠点に活動するサブカル系お茶屋「龍騎士団茶舗」の井上賢人がお届けするお茶コラム「日本茶を駆(か)る」。第2回は「お茶の産地」についてお話しします。
日本茶の産地と言えば静岡や京都が有名ですが、沖縄・九州から東北まで日本各地でお茶が作られています。
高品質な日本茶の生産に適している地域や、大量生産するのに向いている地域、はたまた通常の日本茶の生産にはあまり適していなくとも、それを逆手にとってその土地ならではのお茶を作っている地域など、様々な産地が日本には存在します。
そのように日本全国にある様々なお茶の産地から注目の13産地を北から南にかけてご紹介します。

1. 埼玉県

埼玉県は関東一の茶所とされ、都道府県別の生産量では10位にランクインしています。
なんと言っても煎茶、特に「狭山茶(さやまちゃ)」が有名です。
埼玉の茶摘歌(ちゃつみうた)にも「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」と歌われており、狭山市はその味の特色を「コク味」と表現しています。

狭山茶の特徴として「狭山火香(さやまひか)」と呼ばれる香りがあります。
「火香」とはお茶の製造工程の一つである「乾燥」の段階で付加される、芳しい香りのことです。
この香りが味と一体になった際に、さらに甘い味わいを作り出すと言われています。
明治時代までは手作業であったお茶の製造に、初めて製茶機械が発明・導入されたのも埼玉県です。

2. 静岡県

静岡県は日本で最も日本茶が作られている産地です。
あらゆる種類の日本茶が生産されていますが、代表的なお茶を挙げるとすれば「深蒸し煎茶」は欠かせません。


「深蒸し煎茶」はお茶の製造工程の一つ「蒸し」において、茶葉の蒸し時間を2〜3倍長くしたものです。
蒸す時間が長くなることで、その後の「揉み」の工程で茶葉がよく揉まれ、急須で淹れた時にお茶の成分が出やすくなります。
その結果、苦味が抑えられ旨味が強くなり、まろやかでコクのあるお茶が楽しめるようになるのです。
また、川根(かわね)や天竜(てんりゅう)、本山(ほんやま)といった地域では深蒸しではない「普通蒸し」のお茶も作られています。

3. 三重県

三重県はお茶の産地というイメージがないという方もいるもしれませんが、実は生産量が国内第3位の茶産地です。
歴史も古く、1500年の関ヶ原の戦いの直後ぐらいにはすでに「伊勢茶(いせちゃ)」が日本各地に運ばれていたという記録が残っています。
主に宇治に向けてお茶が作られていたようですが、時代が進むと関東向けに深蒸し煎茶、九州向けに玉緑茶も作られるようになります。

お茶の色を保つ技術や、旨味を高める技術などの開発も盛んで、幕末から明治にかけては日本茶輸出の開拓も行われました。
かぶせ茶の生産量に関しては日本一であり、品質についても全国品評会において幾度も受賞歴のあるお茶が作られています。
日本茶のどんなお茶でも生産できる、万能な茶産地の一つです。

4. 愛知

愛知県は日本茶生産量は国内第13位ですが、抹茶の原料である「碾(てん)茶」の生産量が国内4位とお茶づくりが盛んな県です。
特に西尾市で生産されている抹茶は、”西尾の抹茶”としてブランド化に成功。
日本国内だけでなく海外でも流通し、皆さんもそれと知らずとも抹茶スイーツとして西尾産抹茶を口に運んだことがあるはずです。

西尾市には茶臼山から流れる雄大な矢作川(やはぎがわ)が流れています。この川沿いで作られた抹茶は、川の抹茶と呼ばれ、強い甘味に爽やかな飲み心地と香り、“竹の緑”と称される明るい緑色が特徴です。
また、西尾市では作られているお茶の96%が「碾茶」で、茶畑が分散せず集中しています。
そのため生産技術や環境の違いなどにバラつきが少なく、品質が高いレベルで均一なことも、地域ブランドの確立に一役買っているようです。
そんな西尾市を中心に抹茶スイーツを提供するカフェが数多く存在しています

5. 京都府

京都府は国内では三重に続き第4位の日本茶生産量ですが、玉露と抹茶の生産量はどちらも2位(1位はそれぞれ三重と鹿児島)で、甘味・旨味重視の日本茶産地です。
もちろん歴史的には「宇治茶」として、時の将軍や戦国武将の寵愛を受けました。
歴史ある茶問屋・茶農家が多いですが、それでいて流行の取り入れも盛んで、江戸時代から続く茶問屋が抹茶のみならず煎茶やほうじ茶なども含めた日本茶スイーツを独自開発していたり、茶農家が自ら運営する日本茶カフェも複数存在しています。

古くは、お茶を甘くするための栽培技術「覆い下栽培」、現代の煎茶などの作り方である「青製煎茶製法」、そして玉露の作り方「玉露製法」なども、京都は宇治の地にて開発されました。
これらの技術が全国に広がり、今の日本茶の基礎となっています。
京都は現在も、お茶に関する新たな商品・技術の開発が日々行われている産地の一つです。

6. 滋賀県

滋賀県は愛知県に続き生産量国内第14位の日本茶産地ですが、茶摘歌(ちゃつみうた)に「宇治は茶所、茶は政所(まんどころ)」と歌われるほど、高い品質の日本茶の生産地です。
県内でも場所によってお茶に様々な特色があります。
例えば先述の政所は滋賀の茶産地で、豊臣秀吉に終生愛された産地として歴史的にも名高い土地です。
現代で主流の挿し木による「品種茶」ではなく、種から生まれた昔ながらの「実生(みしょう。在来とも言う)」から作られるお茶は、どこか荒々しくも力強い野性味を持っています。

朝宮の茶畑(滋賀県提供)

甲賀市信楽の朝宮地区は煎茶の名産地で、香りとコクがしっかりした煎茶が作られています。
また、甲賀市の土山と呼ばれる地域では全国品評会で上位入賞歴もある高品質なかぶせ茶が作られ、ほうじ茶の産地としても知られており、頓宮(とんぐう)大茶園という巨大な茶畑も位置しています。

7. 福岡県

福岡県は生産量国内第6位の日本茶産地です。
ブランドとして県も総力を挙げている「八女茶(やめちゃ)」が有名で特に八女の玉露と言えば強い旨味が特徴です。
「八女伝統本玉露」は地域ブランドとして国にも登録され、昔ながらの「わら」による茶園への覆いや手摘みといった伝統的な手法で作られる玉露は濃厚かつ、まろやかでこくがあると評されています。

その高品質な玉露の生産技術は抹茶にも活かされ、宇治や愛知と双肩を並べるほどに抹茶スイーツの開発も盛んです。
例えば八女の星野村(ほしのむら)は伝統ある高級茶の産地として知られていますが、抹茶や玉露を利用したスイーツ、またそれらを楽しめるカフェが複数存在します。

8. 佐賀県

佐賀県は生産量国内第8位の日本茶産地です。
中国から持ち帰られた茶の種が日本で初めて蒔かれたと言われる「脊振山(せふりさん)」も、佐賀県に位置しています。
ブランドとしては「うれしの(嬉野)茶」と呼ばれています。

お茶の種類では「釜炒り茶」が有名で、中国から佐賀に移り住んだ人物が、直接その製法を伝えたとされています。
釜炒り茶は一般的なお茶の製造工程である「蒸し」の段階を行わず、代わりに「炒り」を行うことで作られます。
煎茶らしい爽やかな苦味と旨味、そして何と言っても「釜香(かまか)」と呼ばれる独特の芳ばしい香りが特徴です。
釜炒り茶の味わいは、“清風が吹くかのよう”と表現され、日本・中国の多くの文人たちから愛されました。
現在は生産量が少なく希少なお茶(日本茶国内生産の1〜2%)ですが、日本茶が初めて世界に輸出された頃に多く輸出されていたのも、釜炒り茶とされています。

9. 長崎県

長崎県は生産量国内第12位の日本茶産地ですが、「玉緑茶」の生産では第2位(1位は佐賀)の県です。
玉緑茶には「釜炒り製」と「蒸し製」があります。
佐賀県のお茶の特徴として「釜炒り茶(釜炒り製玉緑茶)」を紹介しましたが、長崎県の特徴として挙げたいのが「蒸し製玉緑茶」です。
蒸し製玉緑茶はほとんど煎茶と同じ作られ方をしますが、製造工程の一つ「揉み」の段階において、煎茶よりも揉み込まれることなく作られます。
その結果、苦味が控えめとなり、ほんのりと優しい甘味が何煎も進むお茶ができあがります。

歴史的には長崎県には、日本が鎖国を行っていた時代も「出島」が置かれ海外との交流が行われていました。
その結果、日本茶が国内から初めて6トンもの量で輸出されたり、医師であるシーボルトが日本茶を海外に紹介する拠点ともなりました。
これらが後の日本茶輸出に繋がっていきます。

10. 熊本県

熊本は佐賀に次いで生産量国内第9位の日本茶産地です。
佐賀の釜炒り茶とは製法が少し違う「青柳式(あおやぎしき)釜炒り茶」が特徴(佐賀は「嬉野式(うれしのしき)釜炒り茶」)で、佐賀の釜炒り茶よりも「釜香(かまか)」という独特の芳ばしい香りが強いと言われることもあります。
中国出身の人物から直接手解きを受けた佐賀の釜炒り茶と異なり、熊本の釜炒り茶は戦国武将の加藤清正が朝鮮半島から技術を持ち帰ったと伝えられています。
その時の差異が、現在の釜炒り茶の多様性となりました。

古くからの産地と新興産地が多くあり、県内には様々な地域名のお茶が存在します。
特に県南部ではその温暖な気候によって茶の生育が早く、八十八夜ならぬ「七十七夜」で作られた「早出し茶」が存在し、水俣市などでは「七十七夜献茶祭」という祭りも開催されています。

11.宮崎県

宮崎県は生産量国内第5位の日本茶産地です。
煎茶の生産では国内第3位であり、釜炒り茶と、最近では抹茶の原料である碾茶や、国産紅茶の生産も行われています。
宮崎県のお茶はその品種に特色があります。
全国的にお茶の品種は「やぶきた」が約70%程度を占めているのですが、宮崎県においては「やぶきた」以外の品種、特に県が栽培を勧める12品種が半分以上を占めています。
品種が異なれば、そこから作られるお茶の味や香りも変化します。

宮崎県では、様々な味わいの体験をもたらしてくれるお茶が生産されています。
温暖な気候と広大な土地は、環境の変化に比較的強い「やぶきた」に偏らないお茶品種の栽培のみならず、無農薬でのお茶栽培の推進にも一役買っています。

12. 鹿児島県

鹿児島県は静岡県に次ぐお茶の一大生産地です。
本格的な茶製造の歴史は第二次世界大戦後と新しいのですが、計画的に茶畑を整備し開発していくことによって、現在の大量生産を可能にしました。
全国では60〜70%程度である茶畑作業の機械化に関して、鹿児島では98%もの導入率を実現しています。

宮崎県のように「やぶきた」に偏らない様々なお茶の品種が栽培されていますが、特にアミノ酸が多くて甘味・旨味の強い品種の栽培に力が入れられています。
成長が早く旨味・コクのある「ゆたかみどり」を代表として、最近ではその甘味から全国の品評会で上位入賞も珍しくない「さえみどり」、煎茶などに近い育て方をしても甘味が強いことから「天然玉露」とも呼ばれる「あさつゆ」など、飲みごたえのあるお茶が楽しみやすい産地です。

13. 沖縄県

最後に国内での日本茶生産量は下から7番目と多くはないですが、個性的な産地として沖縄県をご紹介します。
沖縄県では琉球王国時代に国王に献上されるものとして茶の生産が始まり、今に至っています。
沖縄は日本国内でも最南と言える場所に位置するため、インドのアッサムやスリランカといった茶産地に環境が近いのが特徴です。
そういった環境を生かし、近年は国産の紅茶の栽培も盛んで、日本生まれの紅茶向き品種である「べにほまれ」「べにひかり」「べにふうき」の紅茶が生産されています。

沖縄には「ブクブク茶」という、米の茹で汁と番茶、烏龍茶を混ぜたものを変わった形の茶筅で抹茶以上に泡立て、赤飯などを少し入れ、泡に炒った落花生を乗せて飲む(食べる?)お茶が存在します。

大陸に近いためか、かつては烏龍茶やジャスミン茶の生産も盛んだったようで、今でもジャスミンの香りがする「さんぴん茶」はペットボトルや缶入りの飲料として県民に愛されています。


ここまで13の産地をご紹介してきました。
このほかにも全国には茨城、岐阜、奈良などここで紹介しきれない魅力的な産地が数多くあります。
ぜひ日本各地のお茶を飲んでお気に入りの産地を見つけてみてください。

執筆=井上賢人(龍騎士団茶舗) 

※日本茶生産量は令和2年(2020年)のデータを参考にしています。
参考書籍『日本茶全書』渕之上康元・弘子 農文協

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