狭山茶の伝統を守り、挑戦し続けるイノベーター

池乃屋園(埼玉・入間市)

江戸時代後期から狭山茶の産地である埼玉県入間市でお茶の生産・加工・販売を行う「池乃屋園(いけのやえん)」。埼玉県初のボトリングティーの発売、入間市で唯一の玉露生産、異業種とのコラボレーションなど、新たな取り組みや商品開発を積極的に行い、業界内外で注目を集めています。
今回は、そんな狭山茶のイノベーター的存在の一人である「池乃屋園」の代表・池谷英樹さんのもとを訪ね、お茶作りに対する想いやおすすめの商品について伺いました。

埼玉県の入間市・狭山市・所沢市を中心とした狭山丘陵地域で主に生産されている狭山茶。
「池乃屋園」の茶園がある入間市の金子地区は狭山茶の主要産地で、「茶どころ通り」と呼ばれる東西約4キロメートル続く道沿いには、約400ヘクタールに及ぶ広大な茶畑が広がっています。

コーヒーから日本茶の道へ

思わず手に取りたくなるようなユニークな商品を多数展開している池谷さん。
意外なことに、もとは家業を継ぐつもりはなかったと言います。
大学4年間はスターバックスでアルバイトをし、コーヒー豆の産地や生産者、豆ごとの背景を熱心に調べていたそうです。
ところがある時、「日本茶にも産地ごとの違いにおもしろさがあるのでは」と気づき、卒業後は家業を継ぐことに。
それからは全国のお茶を飲み比べ、他の農園を見学して勉強の日々。
その努力の甲斐あって、2009年には茶師の腕前を評価する大会「全国茶生産青年茶審査技術競技会」で農林水産大臣賞を受賞しました。

池谷さんは伝統的な狭山茶づくりを続けながら、お茶を飲むきっかけづくりとしてさまざまな挑戦も行っています。「もともと新しいことをやったり、いろいろな人と動くのが好きで、それがお茶の商品開発にもつながっていると思います」と池谷さん。
茶葉を特別な方法で抽出して瓶詰したお茶「ボトリングティー」は、埼玉県で初めての開発でした。

次世代の狭山茶を象徴する「とどめ茶」

「池乃屋園」では独自ブランドの商品も積極的に展開。その代表作が看板商品でもある「とどめ茶」シリーズです。狭山茶の味わいを知ってほしいとつくられた商品で、「とどめ茶」の名称は「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」のフレーズで知れられる茶摘歌から名づけられました。

「とどめ茶」は煎茶、紅茶、ほうじ茶、茎茶、粉茶、冠茶(かぶせ茶)といったバラエティ豊かな6種類のティーバッグのほか、煎茶・和紅茶・ほうじ茶をベースにスパイスやフルーツを取り入れた3種類のブレンドティーもラインナップ。お茶本来の味わいを活かしつつ、エキゾチックなスパイスの香りやフレッシュなフルーツの風味が感じられます。 
「熟成 紅ほうじ茶」は、紅茶の「茎」を焙煎し、カカオのような独特の香ばしさが楽しめる人気商品。和食にも、洋菓子にも、幅広くマッチすると評判です。

続いて紹介するのは「蔵出し熟成 狭山本玉露 」。玉露は茶園に覆いをかけて日光を遮断して栽培するお茶で、甘みやうまみが凝縮されています。

「蔵出し熟成 狭山本玉露 」は、春に摘んだ茶葉をひと夏寝かせることで味わいに深みを増しているそうです。
現在、入間市で唯一つくられている玉露です。

今後はシングルオリジン茶葉の商品化にも力を入れていきたいという池谷さん。
2024年6月にはシングルオリジンの品種茶の魅力を存分に楽しめる新商品「彩茶辞典」を発売。第一弾として「やぶきた」、「さやまかおり」、「ふくみどり」など5種類のシングルオリジンの品種茶が登場しました。
複数の品種をブレンドするお茶とは異なり、品種ごとの個性を楽しめるシングルオリジンのお茶にもご注目ください。

生産者・茶師・淹れ手として狭山茶を広める

池谷さんは現在、狭山茶をもっと知ってほしいという想いのもと、生産者、茶師、淹れ手としての多岐にわたる活動をしています。
お茶の淹れ手としてはイベント出店を中心に活動。東京・神楽坂にある日本茶を使ったデザートコース専門店「VERT」では月に1度、デザートコースに合わせたお茶を提供するイベントを開催しています。
「お茶って、お湯を冷ます温度だったり、急須の産地だったり、淹れ方にいくつも道筋があるから、とことんこだわれるんです。おもしろいです」とお茶の淹れることの魅力を教えてくれた池谷さん。「VERT」でのイベントもぜひチェックしてみてください。

VERTで開催しているイベントの様子

「狭山茶は味が濃厚で甘みがある、とよく言われています。その通りでもあるんですが、うまみのあるお茶づくりを突き詰める人もいれば、魅力的な香りが出るよう探求する人もいます。狭山茶の茶農家は10人いたら10人ごとにお茶づくりが違う。お茶のバラエティがとても豊かな産地だと思います」と池谷さん。

埼玉では茶農家がお茶の販売まで行うことが一般的。そのため、生産者のアイデアや消費者のニーズが反映され、ユニークなお茶が生まれていると池谷さんが教えてくれました。

「産地へ来るのはハードルが高いかもしれませんが、農園の雰囲気を見ていただくだけでもお茶の楽しみ方が変わると思います。お茶を飲むだけではなくて、作り手の顔や思い、一袋のお茶ができるまでの流れを感じてもらえると嬉しいです」
池谷さんの言葉通り、「池乃屋園」の直売店から10分ほど歩けば、「これぞ狭山!」という一面茶畑の風景が広がっています。
事前に予約すれば、茶畑を一望しながらお茶で一服できる茶畑テラス「茶の輪」も利用できます。
さらに足を伸ばせば、ハイキングコースのある加治丘陵や、狭山茶の歴史を知ることができる「入間市博物館 ALIT」にも行くことができます。
東京からもアクセスのいい狭山茶の産地をぜひ訪れてみてください。

取材・文・写真=芦谷日菜乃

店舗情報
電話/04-2936-0639
住所/埼玉県入間市西三ツ木59
アクセス/JR八高線金子駅から徒歩25分。西武線入間市駅よりバスで20分。入間ICより15分
営業時間/9:00~18:00
定休日/日曜・祝日 ※4〜6月、12月は無休
HPInstagram

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