江戸時代から続く日本茶の産地、岡山県美作(みまさか)市を舞台とした映画『⾵の奏の君へ』が、2024年6⽉7⽇(⾦)より新宿ピカデリーほかにて全国公開されます。
地元の茶葉屋の兄弟とピアニストの切なくも美しいラブストーリーが、緑の茶畑を背景に展開される本作品。監督・原作者がともに美作市出身というだけあって、全編を通して惜しみないふるさとへの愛に溢れ、郷土を知り尽くしたからこそ描けた美しい映像が、物語を引き立てます。
そして、美作というお茶の名産地の魅力を知り、日本茶文化の奥深さを垣間見ることもできる作品です。
ヒロインの里香(さとか)を演じたのはピアニストとしても知られる女優の松下奈緒さん。日頃から日本茶を淹れて楽しんでいるという松下さんに、ロケ中に感じた美作市の魅力や撮影エピソード、ご自身ならではの日本茶の楽しみ方などを伺いました。
岡山県美作市出身である大谷健太郎監督による『⾵の奏の君へ』(配給:イオンエンターテイメント )は、同じく美作市出身の小説家・あさのあつこさんが書き下ろした小説が原案。松下奈緒さんが演じるヒロインの里香は、ピアニスト。家業の茶葉屋「まなか屋」を継いだ元恋人・淳也(山村隆太)に会うため、里香が美作を訪れるところから物語は始まります。
「美作には深呼吸したくなるような場所がたくさんありました」
ーー映画の舞台となった美作市の方との交流はありましたか?
松下奈緒さん(以下、松下) 今回のロケでは、美作市の方々にたくさんお世話になったのですが、皆さんとても温かい方でした。
初めて美作を訪れたときはまだ寒い時期でしたが、寒いなかでお茶を淹れてくださり、お茶工場を丁寧に案内していただくなど、温かく迎えていただきました。
すごく寒かったので、そんな美作の方達の温かさが嬉しかったです。お茶一杯で、こんなにホッとできるんだなって思いました。
ーー美作市のさまざまな場所に撮影で訪れたかと思います。町の雰囲気はいかがでしたか?
松下 美作の茶畑には何度も足を運んで撮影をしました。高台からの見晴らしが素晴らしく、風が気持ちが良く、空気が澄んでいました。とても清々しいんです。
美作には深呼吸したくなるような場所がたくさんありましたね。いろんな雑念を取り払ってくれるような、本当にクリアな町だなって思いました。
あと、町の匂いも印象的でしたね。風が吹いた時に、なんとも言えない懐かしい匂い、香りがしたんです。森の匂いなのか、草木の香りなのかわからないんですけれど、都会にはない体験でした。
ーー印象に残っている映画のシーンはどの場面ですか?
松下 お茶の産地を味や香りで当てる「茶香服(ちゃかぶき)」のシーンは印象的でしたね。現地の皆さんにもいろいろと協力していただいて撮影を行いました。撮影時間がとても長かったんですが、「もうちょっと頑張りましょうね」と、みんなで励ましあったりして(笑)。スタジオの撮影では感じられない、地域の人との繋がりを実感できるとてもいい撮影でした。
「美作は生活の中にちゃんとお茶がある」
ーー日本茶は普段から飲まれていますか?
松下 はい、飲みます。大好きです。今回のロケではいろいろなお茶を飲ませていただいて、日本茶ってこんなに奥が深いんだなって、本当にびっくりしたんです。甘かったり、ちょっと苦みがあったり、 後味に特徴があったり。自分は一体何が好きなのかわからなくなるぐらい、全部おいしかったです。
ーー美作のお茶を飲んでみて、どんな印象をお持ちになりましたか?
松下 美作のお茶は甘かったですね。くせがなくて、何度もおかわりしたくなるようなお茶だと思いました。撮影中もよく飲んでいました。
美作では昔ながらのおもてなしの中に、ちゃんとお茶があるんです。コーヒーや水ではなく、お茶というのが美作らしいですよね。美作の方に「飲んできいや」と出していただいたお茶が、すごくおいしいんです。薄くもなく濃くもなく、とても上品。美作の皆さんは、きっといいお茶を普段から飲んでいらっしゃるんだなと。お茶がちゃんと生活に根付いているのっていいなと思いました。
ーー映画の中には、里香が元恋人・淳也の弟である渓哉(杉野遥亮)に日本茶を丁寧に淹れてもらうシーンが登場しますね。
松下 私もお茶を淹れる時は、お湯の温度は気にしますね。結構こだわって自分なりに淹れるんですれけど、やっぱり人に淹れてもらうお茶が一番おいしいなって思いました。
お茶は、葉っぱとお湯の温度との相性や組み合わせでいかようにも味が変わるので、杉野さんもお茶を淹れる練習をたくさんされたみたいです。
撮影では日本茶インストラクターの先生に、淹れ方や所作を教えていただいているので、美作の方がご覧になっても違和感がないようになっていると思います。
「子どもの頃からお茶がすごく身近にあったんです」
ーー松下さんご自身もお茶に対してこだわっていらっしゃると思うのですが、どんな味わいのお茶がお好きですか?
松下 これが本当にいろいろあるんです。朝に飲むんだったら甘めがよくて、夜に飲むんだったら濃いめの、苦いぐらいのお茶が好きです。食事のあとに飲むんだったら、しっかり苦みと風味のある濃いお茶をよく淹れますね。
狭山茶も好きで、気分に合わせて苦味が強い狭山茶を淹れたりもするんです。
ーー今のように深くお茶を楽しむようになったのは何かきっかけがあったのでしょうか?
松下 子どもの頃からお茶がすごく身近にあったんです。飲むものといえばお茶でした。その延長で、緑茶だけでなく、紅茶も好きですし、最近は和紅茶も好きです。
今はいろいろな種類のお茶があって、自分で好きなものを選べるようになりましたよね。こう淹れればこういう味になるかなぁなんて考えながら飲むこともあります。単純に、お茶が好きなんです。
今回のロケ中に美作でお茶をたくさん買いました。1キロぐらいかな。煎茶ではなくて番茶ですけど、とてもおいしくて、今度行ったらまた買おうと思っています。
故郷を深く愛する制作陣が、郷土の美しい風景や、生活に根差したお茶文化を描いた本作。お茶のつくり手の思いやおいしい淹れ方、「茶香服」などのお茶の楽しみ方も知ることができます。また、私たちが子どもの頃から何気なく接してきた「お茶」がある風景の豊かさにも改めて気がつかせてくれるでしょう。人の数だけある多様なお茶の世界の奥深さを、ぜひ本作品から味わってみてください。
ご自身がピアニストでもある松下さんは、映画の劇中曲の作曲も手がけ、演奏シーンも吹き替えなしで挑んでいます。美作の地でご自身と演じる里香を重ね合わせながら紡ぐ旋律も見どころの一つです。
【ストーリー】
岡山県美作市の緑豊かな山々のふもと。古き良き趣を残すまち並みに温泉を携え、お茶処でもあるこの地で、浪人生の渓哉(杉野遥亮)は無気力な日々を過ごしていた。一方、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いだ兄の淳也は、日本茶の魅力で町を盛り上げようと尽力していた。
かつて野球に捧げた情熱は燃え尽き、勉強にも身が入らずにいたある日、ピアニストの里香(松下奈緒)がコンサートツアーでやって来ることを知った渓哉。里香はかつて兄の淳也(山村隆太)が東京での大学時代に交際していた元恋人だった。
コンサート会場の客席で渓哉が見守る中、舞台上で倒れてしまった里香。療養を兼ねてしばらく美作に滞在することになった里香を、渓哉は自宅の空き部屋に招待する。突然現れた昔の恋人を冷たく突き放す淳也に、「あなたには迷惑はかけない」と告げる里香。こうして少し風変わりな共同生活が始まった。
清らかに流れる川を吹き抜ける風、燃えるような緑の美しい茶畑。自然の優しさに囲まれて曲作りに励む里香に、ほのかな恋心を募らせる渓哉。しかし里香にはどうしてもこの場所に来なければならない理由があった――。
【作品概要】
出演:松下奈緒、杉野遥亮、山村隆太(flumpool)、⻄山潤、泉川実穂、たける(東京ホテイソン) 、 池上季実子
監督 脚本:大谷健太郎
原案:あさのあつこ「透き通った風が吹いて」 (文春文庫)
配給:イオンエンターテイメント
宣伝:ナカチカピクチャーズ
製作:「風の奏の君へ」製作委員会
2024年/日本/5.1ch/ビスタ/カラー/DCP ©2024 「風の奏の君へ」製作委員会
「⾵の奏の君へ」公式サイト https://kazenokanade-movie.jp
取材・文/吉澤志保
写真/鈴木智哉
衣装/ブラウス(So close 0120-337-337)、イヤリング(TAKE-UP 03-3462-4771)、スカート、パンプスはスタイリスト私物