コーヒーの「バリスタ」、ワインの「ソムリエ」のように、日本茶を淹れる人を「淹れ手」と呼ぶ動きが少しずつ広がり始めています。その淹れ手の「技術」と「個性」を競う大会「NIHONCHA BREWERS CHAMPIONSHIP 2026(日本茶ブリューワーズチャンピオンシップ2026/以下、NBC)」が、2026年9月12日(土)に横浜で開催されます。
本大会には、関西、九州、静岡など全国の予選を勝ち抜いた7名の淹れ手が集結します。

「日本一の淹れ手」を決めるこの大会は、なぜ生まれたのでしょうか。
そして、その先に見据える、淹れ手と日本茶の未来とは――。
NBCに込められた想いと、これからの日本茶の可能性について、大会を牽引する二人のキーマンにお話を伺いました。
競わなければ誕生しない「日本茶の世界のスター」
「日本茶の業界は比較的、みんなで足並みをそろえることを大切にしてきました。ですが今は“個が光る”時代になり、日本茶の世界にも“スターとなる個人”が必要だと思っています」
そう語るのは、NBCを運営する「NPO法人日本茶インストラクター協会」の理事であり、NBCの実行委員長を務める奥富雅浩(おくとみまさひろ)さん。日本茶の専門資格「日本茶インストラクター」の価値向上と、日本茶業界の未来が少しでも明るくなるよう、様々な取り組みをしています。

そのような思いから生まれたNBCですが、今回のNBCは日本茶インストラクター資格の有無を問わず、誰でも挑戦することができるため、より注目度が高まっています。
「最初は、一定量の日本茶についての知識を持つ日本茶インストラクターに奮起してもらい、“スター”を目指してもらおうと思ったのですが、日本茶インストラクターでなくても、日本茶のカフェや個人で活動している淹れ手もいます。そのような方たちも平等に応援したいので、出場条件をアップデートしました。一人ひとりにスターになれる可能性がありますし、その意識をみんなで持てば、日本茶業界もさらに発展するはずです」(奥富さん)

同じ茶葉であっても、淹れる人によって味わいが大きく変わる日本茶。本大会では一次、二次、三次審査が設けられ、各選手が審査テーマに沿ったお茶をその場で淹れ、プロの審査員と一般来場者が、その過程や味わいを評価します。
淹れるテクニックや味・知識はもちろん、淹れるという行為を通して伝わる個性や人柄、伝える力などが総合的に評価されます。
詳しい審査内容はこちら
https://nihonchaseikatsu.com/nbc2026/

過去に出場した選手は「こんなにお茶と真剣に向き合ったのは初めてだった」と、決まって大会当日までの苦労を滲ませます。努力と時間を惜しまず挑まなければ立てない舞台に挑む淹れ手へ、奥富さんは「結果がどうであったとしても、すべての淹れ手が成長の機会になる場を目指したい」と語ります。
「選手には最後に、それぞれへの評価をフィードバックします。普段のお茶淹れでは気づけないことも、競技という場に立つことで見えてきますし、評価基準はシンプルな優劣だけではありません。“この人の淹れるお茶って素敵だな”と自然と感じられる表現力や人間力、総じて“人を惹きつける力”も大切な評価ポイントです」(奥富さん)
オーディエンスも審査員に
「日本一の淹れ手」を決める審査には、プロの審査員だけではなく、一般来場者にも投票権があります。そこには、奥富さんの強いこだわりがあります。

「一つひとつの工程を丁寧に積み重ねながら、心を込めて淹れたお茶は、味わいにも表れます。選手の皆さんは本気で大会に挑み、皆さんに届ける一杯のために、どれだけの思いや情熱を込めているのか。会場にいると、一人ひとりのお茶に向き合う人生や想いを見ているような気持ちになりますよ。その背景を知った上で味わう一杯は、自然と心を動かされます。その体験を多くの方にしてもらい、“自分も淹れてみたい”という気持ちが芽生えたら最高です。そして何より、全国の実力者が淹れるお茶を一度に味わえる機会は、とても貴重だと思います」

大会当日は、オーディエンスのための特別イベントも企画しているとのこと。主役の選手たちだけではなく、お茶を愛する観客にとっても楽しみが絶えない、特別な一日になりそうです。

優勝者が見た景色と、静かな変化
さて、過去のNBCにて優勝し、見事「日本一」になった選手は、その後どうなっているのでしょうか。
もう一人のキーマンとして、前回の2025年大会でチャンピオンを獲得した西瑠偉(にし るい)さんにも話を伺いました。

日本茶インストラクターであり、大阪に店舗を構える日本茶カフェ「SHIKI JAPANESE TEA」ブランドマネージャーの西さん。NBCに出場したことは、彼のお茶人生において貴重な経験となったようです。
「NBCは、オーディエンスの皆さんの意識が高く、こちらも襟を正さないと!と感じる、いい緊張感のある場でした。正直、当日は準備不足や緊張もあって、100点満点とは言える出来ではありませんでしたが、自分なりの考えを持ってお茶を淹れられたことが、結果につながったのではないでしょうか」

店舗での経験に加えて、日本茶とは関係のない場面から着想を得ることも多いという西さん。2025年のNBCでは和紅茶を茶筅で点てるという新しいアプローチを披露し、会場を沸かせました。
「新しいお茶の淹れ方は、休日を過ごしている時や、風景を見ている時に浮かんできますね。例えばオリーブを口にしたとき、この甘味や旨味をお茶に転換するとどうなるかな? その時に青空が広がっていたので、あの白い雲をお茶で表現できないかな? とか。ただ、奇抜なことをするだけではお茶の軸から外れてしまうので、この着想をお茶としてどう論理的に落とし込むかがポイントだと思っています」
優勝後、西さんにはどんな変化が訪れたのでしょうか。
「何かが大きく変わったわけではありませんが、優勝後は、周りの方が僕の言葉を受け止めてくださる姿勢が変化したのを感じます。僕は、栽培や製造についての知識や、生産者さんの想い、それをどう伝えるかも淹れ手の役割だと思っているのですが、僕の言葉にしっかりと説得力を感じてもらえるようになったと思いますし、それが働いているお店の活気にもつながっているようで嬉しいですね」
店舗の外でも茶会を開くなど、個人の淹れ手としても活動する西さん。選ばれるべくして選ばれた、日本茶の世界のスター候補として、今後の活躍から目が離せません。

NBCが新たなカルチャーの発信源に
開催が迫る今回のNBC。奥富さんも西さんも、日本茶の未来を切りひらく重要な大会になることを期待しています。
「日本茶インストラクター協会の理事がこんなことを言うのも変かもしれませんが、お茶の淹れ方に正解はありませんから(笑)。お茶の淹れ方は、まだまだいくらでも新しいものを生み出せる。その可能性を、伝統文化としてではなく、身近な“カルチャー”として発信したいと思っています。素敵な淹れ手が増え、その存在がもっと世の中に知られるようになれば、お茶そのものの価値も上がっていくでしょう。そのためには、選手はもちろん、観客の皆さんの力も必要です。一緒に新しいカルチャーの発信源をつくり、そしてスター誕生の瞬間を祝いましょう!」(奥富さん)
「今回はいつも以上に、どんな出場者が本選に出てくるのかわからないですよね。観客の方々も、同じワクワク感を感じているのではないかと思います。おいしさの先にあるエンターテイメント性の追求や、伝統的な茶道・煎茶道を組み込んだ新しいスタイルへの挑戦など、今後も日本茶の世界に一石を投じる大会になることを願います」(西さん)

「お茶を淹れる人」は、どこまで自由に羽ばたけるのか。
一杯に込めた技術や表現、そして挑戦する熱意。日本茶の未来を切りひらく「淹れ手」たちの挑戦に、ぜひ注目してください。
取材・文=市原侑依
開催概要
開催日時:2026年9月12日(土)13:00〜17:00(12:30受付開始)
会場:TKPガーデンシティ横浜(横浜市神奈川区金港町3-1 コンカード横浜2階)
アクセス:JR 横浜駅 きた東口Aから徒歩5分
入場無料
イベント詳細:https://nihonchaseikatsu.com/nbc2026/
実施主体:日本茶業体制強化推進協議会
実施運営:NPO法人日本茶インストラクター協会、NIHONCHA BREWERS CHAMPIONSHIP 実行委員会、日本茶生活合同会社





