海と山に囲まれた長崎・東彼杵町(ひがしそのぎちょう)で生まれる「そのぎ茶」。
本連載『長崎 そのぎ茶ものがたり』では、この地でお茶に携わる人々の声を通して、産地の今とそのぎ茶の魅力をお伝します。
長崎県のちょうど真ん中に位置する「東彼杵町」。大村湾に沿って栄えたここは、およそ7,300人が住む小さな町です。お米やみかん、いちごなどの農業が盛んだったり、昔は捕鯨文化もあり、くじら料理が楽しめる飲食店もちらほら。中でもこの町が一際力を入れているのが、ブランド茶「そのぎ茶」。
町内にはおよそ400ヘクタールの広大な茶畑が広がり、長崎県の約6割のお茶を生産しています。400ヘクタールをわかりやすく例えると、ディズニーランドとシーを合わせた面積の2倍なんだそう。
過去には、全国の茶商・茶農家がお茶の品質を競い合う「全国茶品評会」や「日本茶AWARD」にて日本一を受賞したことも。詳しくは前回の記事で説明していますのでご覧ください。

町内にはお茶はもちろん、東彼杵町で生産された茶葉を使った抹茶「そのぎ抹茶」のドリンクやスイーツを楽しめるカフェや飲食店がたくさんあります。
今回の記事では、そんなお店の中からオススメショップをご紹介。一緒に町をぶらりと散歩している気分でお楽しみください。
あたたくて優しいコーヒースタンド「Tsubame Coffee」
十数年前までは「通りすがりの町」と言われていた東彼杵町。ですが今では、カフェや飲食店、雑貨屋などたくさんの新しいお店が立ち並んでいます。
その大きな理由として、町の交流拠点「Sorriso riso(ソリッソリッソ)」が誕生したことがひとつ。

JR大村線・千綿駅から徒歩10分ほどの場所にある同店。2015年にオープンし、さまざまなプロジェクトや音楽イベントなどが開催され、町内外から人が集う場所となっています。
米倉庫がリノベーションされたという建物は、至る所でその名残が。当時あった看板もそのままに、昔の雰囲気が漂います。

「Sorriso riso」に店舗を構えるのは、コーヒースタンドの「Tsubame Coffee(ツバメコーヒー)」。
店主の北川真由美(きたがわ まゆみ)さんが、「おはようございます〜」と柔らかな笑顔で迎えてくれました。

同店ではコーヒーやラテはもちろん、東彼杵町らしいドリンクも取り揃えています。

まずいただいたのは、「そのぎ玉緑茶フラッペ」。コクや甘味が強い抹茶に対して、玉緑茶を使うとよりお茶の旨みを感じられ、後味もすっきり。この商品を求めてお店にやってくるというファンもいるというのにも納得です。
ちなみに「玉緑茶」とは緑茶の一種で、茶葉が勾玉状にカールしたお茶のこと。東彼杵町で作られるお茶の多くはこの「玉緑茶(蒸し製)」です。
「そのぎ玉緑茶フラッペの開発には苦戦しました」と北川さん。
「そのぎ玉緑茶フラッペ」は、東彼杵町の茶農家「東坂こくまる商店」協力のもと、玉緑茶を細かく砕いた「粉茶」を使って作られています。しかし、この「粉茶」は粒が大き過ぎるとだまになってしまうため、徐々に粒を細かくし、何度も作り直して、なめらかな飲み心地のフラッペが誕生したそうです。
他にも、「そのぎ玉緑茶ラテ」や、シングルオリジンのそのぎ茶「くじらのなみだ」など、ここでしか飲めないドリンクもおすすめです。

お店をオープンする前から、使われなくなった建物のリノベーションやイベント企画など、東彼杵町の活性化を目指して活動してきた北川さん。
十数年間かけて、町が段々と盛り上がっていく様子を目の当たりにしてきた今、「”東彼杵”というワードを知ってる人が増えてきて嬉しい」と話します。
店内には、長崎県内で活躍しているアーティストがパッケージデザインを手がけたドリップパックや、東彼杵町の花屋「ミドリブ」から仕入れた花など、地元で繋がった方々のものも丁寧に並べられており、これまでの歩みと、ご縁のあたたかみを感じられます。
北川さん「ここを運営していく中で、たくさんの人と繋がって、広がっていくのはすごく幸せなことです。これからも繋がりは大事にしていきたいですね」
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店舗情報
電話番号:0957-20-1883
住所:長崎県東彼杵郡東彼杵町瀬戸郷1303-1
アクセス:JR千綿駅から徒歩10分
営業時間:10:00~18:00
定休日:火・水
URL:https://www.instagram.com/tsubamecoffee.sorriso/
東彼杵町ならではのデザインが楽しめるセレクトショップ『=vote』
喉も潤ったところで次に向かうのは、「Sorriso riso」の横にお店を構える「=vote(イコールボート)」。ここでは「そのぎ茶」をポップに楽しめるアート雑貨と出会えます。

「この場所はもともとコインランドリーだったのですが、地域の方がアートを気軽に楽しんでもらえるようにと、空き家とアートをかけた『アキヤアト akiyaato』というイベントをきっかけにお店がスタートしました」と、「=vote」のはじまりを教えてくれたのはスタッフの菅陽南子(かん ひなこ)さん。

店内には、カラフルで個性的なポスターや雑貨がずらり。見ているだけでもワクワクします。

「お茶の町」らしく茶畑がデザインされたポスターやコースター、ポーチなどの商品も。お茶好きにはたまりません。お土産にもぴったりのアイテムです。

実はこの商品を作っているのは、就労支援施設に通う方々。アートを描き、縫製して商品化するところまでを一貫して行なっているそうです。
「=vote」という店名は、「商品の購入や関わっていただくことが、この取り組みへの”投票”につながる」という意味からきています。オープンから2年半が経ち、地域の方やお客様にとって気軽にアートを楽しめ、福祉のものづくりの力を知っていただくショールームとして広がっています。

2025年9月に東彼杵町のお隣の川棚町へ東京から移住してきたという菅さん。ものづくりに興味があったことから、知人に紹介されて「=vote」に入社したそうです。
菅さん「最初は素材の種類など、覚える事が多くて大変だったのですが、最近は仕事の幅が広がり、イベントの企画にも関わるようになりました。自分のやりたいことにチャレンジできる環境なので、日々やりがいを感じています」
ショップの運営以外にも、収益化につながる商品化と販売・流通戦略を考え、東京や大阪などの首都圏まで展開しています。
アートを身近に感じられるワークショップの開催など活動の幅を広げている「=vote」。個性的な活動の数々にぜひ注目してみてください。
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店舗情報
住所:長崎県東彼杵郡東彼杵町瀬戸郷1205-2
電話番号:080-8080-4569
アクセス:JR千綿駅から徒歩10分
営業時間:平日 11:00-17:00 / 土日祝 10:00-17:00
定休日:火・水
URL:https://www.instagram.com/equal.vote2023/
こだわりのそのぎ茶と米粉ピザが自慢の「御慶緑茶 OK. GREEN .TEA」
大村湾を眺めながらしばしドライブを楽しみ……。続いて向かうのは、店内から絶景が見渡せると噂の店、「御慶緑茶(おけいりょくちゃ)OK. GREEN .TEA」です。

店内に入ると、大きな窓の向こうに広がる大村湾の景色が出迎えてくれます。

「こんにちは〜!」と店主の山口敦(あつし)さん。
東彼杵町の隣町の大村市出身で、4年前にお店をオープンしました。
メニュー表には、緑茶や抹茶、黄金緑茶などさまざまなお茶が並びます。

「そのぎ茶」を使ったこだわりのドリンクは、お茶の良さを最大限活かすように、種類によって淹れ方が変えられています。
また、お茶と合わせてグルテンフリーの「米粉ピザ」もおすすめ。
種類はマルゲリータやテリヤキ、シーフードなどなど。米粉を100%使用しているので、生地はモチモチです。

まだまだ残暑が続いていた取材当日。
そこで注文したのは、人気メニュー「そのぎ抹茶フラッペ」。ざくざくの氷の上に、抹茶がふんだんにトッピングされています。
さらにその上から自家製の黒蜜をかけていただきます。抹茶のコクと豆乳が合わさって、濃厚な味わい。暑い日にぴったりのドリンクです。

「当店のメニューは体に優しいものしか使っていません」という山口さん。
アレルギーの原因となる乳製品は避け、より多くの方が安心して口にできる豆乳を使っています。
また、白砂糖ではなく「粗糖(そとう)」で甘味を出しているのもポイント。粗糖は白砂糖と比べて精製の工程が少ないので、サトウキビに含まれるミネラルがより多く残っいます。
お店をオープンする前は貿易会社に勤めていた山口さん。どんなきっかけで、そのぎ茶のカフェをはじめようと思ったのでしょうか。
山口さん「『茶禅一味(お茶を点てることと、禅の修行は同じ境地に通じるという思想のこと)』という言葉があるのですが、その言葉にならい、以前勤めていた会社では社員研修として坐禅をし、坐禅が終わった後にはみんなでお茶会を開いていたんです。母が茶道の師範をしていたのもあってもともとお茶に興味はあったのですが、お茶会を楽しむうちにより関心が強くなりました」

山口さん「しばらくして起業を考えるようになったとき、その会社の会長に『足元を見なさい』と助言をもらって。それでふと、地元のそのぎ茶が思い浮かんだんです。それからそのぎ茶や日本茶の魅力を伝える仕事をしようと考えるようになり、勉強のために煎茶道を習ったりもしました」
煎茶道を通して、お茶の一番美味しい淹れ方を学んだという山口さん。「生産者さんが命をかけて作るお茶のおいしさを届けることが、僕の使命です」と語り、これからも誰もが納得するおいしい一杯を追求し続けます。
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店舗情報
住所:長崎県東彼杵郡東彼杵町千綿宿郷21−1
アクセス:JR千綿駅から徒歩30分
電話番号:090-3950-7087
営業時間:9:00〜21:00
定休日:なし(年中無休)
URL:https://www.instagram.com/ok.greentea/
東彼杵町内16業者のそのぎ茶を取り扱う、道の駅「彼杵の荘」
お腹も満たされたところで、次はお土産にぴったりのそのぎ茶を探しに行きます。
東彼杵町の茶農家や茶商の商品が揃う道の駅「彼杵の荘(そのぎのしょう)」は、川棚方面に進み、インターを過ぎたところにあります。

東彼杵町で採れた野菜や果物、魚加工品、味噌などの特産品を取り揃える「彼杵の荘」は、平日・休日問わずお客さんで賑わっています。
店内の一角にある「そのぎ茶ブース」では、茶農家・茶商合わせて16業者の商品を取り扱っており、茶葉はもちろん、便利なティーバッグや抹茶なども販売しています。

店内を案内してくれたのは佐藤正一(しょういち)さん。これまで14年間、道の駅に関わってきたベテランスタッフです。
佐藤さん「私が入社した頃と比べて、そのぎ茶の商品数はかなり増えましたね。ここに来ていただければさまざまなそのぎ茶との出会いを楽しめます。地元の方はもちろん、観光客の方もお土産として買って行かれることが多いです。週末にはお茶屋さんが来て試飲会も行っていますよ」

併設されたレストランでは、東彼杵町名物のくじらを使った炊き込みご飯、そのぎ茶を使ったアイスクリームやスイーツなど、この町ならではのソウルフードを楽しめます。
旅の休憩所としてもぜひ利用してみてください。
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店舗情報
住所:長崎県東彼杵町東彼杵郡彼杵宿郷747-2
アクセス:JR彼杵駅から徒歩10分
電話番号:0957-49-3311
営業時間:物産8:00〜17:30/食堂11:00〜14:00
定休日:年末年始
URL:https://www.town.higashisonogi.lg.jp/soshiki/sangyoushinkou/2/1/1024.html
東彼杵町の注目ショップの「そのぎ茶ものがたり」を楽しんでいただけたでしょうか。
お腹も心も満たしてくれる、魅力たっぷりの東彼杵町。今回の記事で紹介したお店の他にも、「そのぎ茶」を味わうことができるスポットはまだまだたくさんあります。大村湾を見渡しながら、ぜひ町を探検してみてください。
次回の「そのぎ茶ものがたり」もお楽しみに!

取材・文・写真=田中すみれ、編集=市原侑依
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