ミドル世代の茶農家が提案する“そのぎ茶”の未来〈大山製茶園×おのうえ茶園〉【長崎 そのぎ茶ものがたりVol.3】

海と山に囲まれた長崎・東彼杵町(ひがしそのぎちょう)で生まれる「そのぎ茶」。
本連載『長崎 そのぎ茶ものがたり』では、この地でお茶に携わる人々の声を通して、産地の今とそのぎ茶の魅力をお伝えします。

そのぎ茶は、長崎県東彼杵町でつくられるブランド茶。全国での生産量はわずか1%ほどですが、品評会での受賞をきっかけに少しずつ知られるようになってきました。
連載第3話では、そのぎ茶を支える中堅世代の農家である「大山製茶園」の大山良貴(おおやま よしたか)さんと「おのうえ茶園」の尾上和彦(おのうえ かずひこ)さんにお話を伺いました。
そんな二人に会うべく訪れたのは、東彼杵町中心部から車で約15分、山あいの中尾地区にある大山製茶園の直売所「お茶飲み処 茶楽」です。

お茶飲み処 茶楽

東彼杵町の同じ地区で茶業を営む家で生まれ育った先輩と後輩の関係にある大山さん(先輩)と尾上さん。最高のお茶をつくるという点ではライバルでありながら、互いに何でも話せる仲の良い二人です。
それぞれが家業として茶づくりを行いながら、地元生産者4人と共同で「フォーティーズ」という事業も展開し、そのぎ茶の産地全体を盛り上げています。

茶の栽培だけでなく、小売に挑む茶農家たち

東彼杵町のお茶農家は従来、生葉を生産し、「荒茶」とよばれる一次加工の状態で、市場や茶商(製茶問屋)に出荷するのが一般的でした。
しかし近年は、荒茶の先、茶商が本来手がける「仕上げ茶」加工まで自ら手掛けて商品化・販売する農家が増えています。
それは一体なぜなのでしょうか。まず二人にその点について伺いました。

――お茶の栽培だけではなく、小売を始めた経緯を教えてください。

大山製茶園の大山良貴さん

大山さん「父の代から少しずつ小売はしていたのですが、本格的に始めたのは15〜20年前からです。茶業界全体の市場価格が下がり続け、資材も高騰するという状況に陥り、茶業を存続させるためには、少しでも市場価格に左右されずに利益を確保する策が必要でした。そこで、茶商に卸すお茶とは別に、自分たちでオリジナリティの高い商品をつくって、コストや利益率を管理しながら販売する道に挑戦してみたんです。小売は、市場に出ればすぐ収入が手に入る一方で、在庫を抱えるリスクもあります。簡単にはできない、大きな賭けでした」

尾上さん「うちは2017年まで、まとめて茶商に卸していました。大山さんをはじめ、先に小売を始めた先輩や自治体のサポートを受けながら、そのぎ茶の知名度が高まっている時期と重なって、少しずつ軌道に乗せることができました」

おのうえ茶園の尾上和彦さん

大山さん「小売をやっていると『おいしかったからまた買いに来たよ』とリピートしてくれるお客さんの声が聞けるのは、やっぱりうれしいですよね」

尾上さん「自分で仕上げたお茶を、お客さんが直接味わってくれるのは、市場に卸すだけでは感じられなかった喜びです。真夏のきつい作業も、お客さんの顔を思い出せば頑張れるし、『来年も、いいお茶を作ろう』って思えます」

そのぎ茶のパッケージに込められたストーリー

大山さん「小売開始後、最初に直面したのは商品パッケージの問題でした。既製品の袋を使っていたら、他の産地のお茶と混同されたことがあって、オリジナルデザインの必要性を実感しました」

音楽好きの大山さんは、かつて東京のレコード店に勤務していました。その頃はイベントのチラシやチケットなどを自分でデザインしていたそう。その経験を活かし、お茶のパッケージデザインにも挑戦しています。

大山さん「最初は、他にない真っ黒なパッケージにしたんですが、年配のお客さんから不評で(笑)。ブラッシュアップを重ねて、ようやく今の形に落ち着いてきました」

大山さんの試みは、東彼杵町のつくり手に広がっていきます。
地元の道の駅「彼杵の荘」(そのぎのしょう)に並ぶお茶は、個性豊かなパッケージばかり。“そのぎ茶”の棚はまるでレコードショップの新譜コーナーのようです。
「どれにしよう?」と手に取りながら選ぶ体験そのものが、“そのぎ茶”の新しい魅力となっています。

ーー尾上さんのパッケージもすてきですね。

尾上さん「デザイナーさんに候補を出してもらって、最終的には妻が決定しました。店舗やイベントで購入するのは女性が多いので、色味や素材感など、女性が手に取りたくなるパッケージを意識しているんです。ティーバッグシリーズは特に目を引くデザインにしました」

ーーそういえば、二人とも商品名に「家族の名前」を使っているそうですね。

尾上さん「子ども、妻、僕の名前から漢字を1文字ずつ取って付けています。子どもからは『自分の名前をもっと高級ランクのお茶に使ってほしかった』と文句も出ましたが(笑)、それなりに愛着を持ってくれてるようです」

大山さん「うちも家族の名前を使っています。他のつくり手にも多いですね。代々家族で営まれてきて、栽培も加工も家族で分担してきた歴史があるから、自然とそうなるのかも。自分の名前がついた商品があるって、うれしいような、荷が重いような(笑)。その名に恥じないお茶でありたい、という気持ちは日々の作業の根っこにありますね」

オリジナリティあふれるパッケージや商品名は、お客さんの印象に残りやすく、もう一度手に取ってもらうきっかけにもなっています。

そのぎ茶を未来につなぐ、碾茶づくり

二人は家業とは別に、2018年から地元の茶農家4人で「株式会社フォーティーズ」を立ち上げ、抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)の生産にも取り組んでいます。

尾上さん「フォーティーズの前身は、2016年に始めた『TSUNAGU SONOGI Tea FARMERS』という活動なんです。お茶の将来に危機感を持っていた、若手生産者・後継者の6人で、”そのぎ茶を未来につなぐ”を目標に動き始めました」

尾上さん「まずは、それぞれが育てた6種のシングルオリジン(単一農園・単一品種)の茶葉をセットにして販売したんです。このセットは、「世界緑茶コンテスト2018」で最高金賞と、パッケージ大賞を受賞することができました。“そのぎ茶”の名を世界に届ける大きな一歩になったかなと思います」

大山さん「また海外市場にも目を向けて、メンバーで分担してアジア、ヨーロッパ、アメリカなど8カ国を巡ってプロモーションを行いました。海外を巡る中で、強く印象に残ったのが、抹茶の存在感の大きさ。どの国のカフェにも抹茶ラテがあって、世界で抹茶が求められていることを、肌で感じましたね」

尾上さん「この活動を通じて、“次の時代に残るお茶とは何か”、“自分たちがいま取り組むべきことは何か”を、より一層真剣に考えるようになりました。そうして6人のうち、1人は発酵茶を極める道に進み、もう1人はミニトマトとの複合経営を選択。残る4人で「株式会社フォーティーズ」を立ち上げて、抹茶の原料となる碾茶づくりに挑戦することを決めたんです」

フォーティーズの碾茶工場

コロナ禍を乗り越え、そのぎ抹茶を世界へ

フォーティーズとして碾茶の生産に取り組むのは、大山さんと尾上さんに加え、「中山茶園」の中山公輔さん、「ふくだ園」の福田新也さん。いずれも全国・県の品評会で上位入賞を重ねる実力派の生産者たちです。
4人は碾茶に適した茶畑を選び、肥料や栽培方法を統一しながら、こまめに情報共有を行って、高品質な碾茶づくりに取り組んでいます。

大山さん「2019年に碾茶工場が完成して、営業を本格化しようとした矢先、コロナ禍に突入してしまいました。この時はとても落ち込みましたが、そんな中でも取引して応援してくださる茶商さんや小売店さんがいて、感謝しかありません。おかげさまで東彼杵町の碾茶からできた抹茶、通称“そのぎ抹茶”は国内だけでなく、海外からの引き合いも徐々に増えていきました」

フォーティーズの商品

尾上「そのぎ抹茶を広めたいという思いから、抹茶キャラメルポップコーンや抹茶ラテパウダーなどの新商品も開発しました。コロナで延期になっていた、フォーティーズとしてのカフェの立ち上げも、2025年にようやくスタートを切ることができました。この場所をきっかけに、長崎東彼杵町においしいお茶と抹茶があることを、もっと知ってもらいたいですね」

フォーティーズの工場横にオープンしたカフェ「ちゃいむ」では、そのぎ抹茶のラテやアイスなどのイートインメニューや、抹茶・蒸し製玉緑茶を購入することができます。
海と茶畑を望める絶景スポットとしても、東彼杵町を訪れるならぜひ立ち寄ってほしい場所です。

ーー 2025年現在、世界的な抹茶ブームが起きていますが、フォーティーズに影響はありましたか?

尾上さん「大きな影響は今のところありません。栽培できる面積や工場での生産量にも限りがあるので、ブームがあっても焦らず、これまでのお客様との関係を大切にしながら、一つひとつ丁寧にお茶を届けたいなと思っています」

大山さん「これからも高品質のお茶を追求して、質で選ばれる産地として信頼を積み重ねていくことが、そのぎ茶の進むべき道だと思っています」

小さな産地だからこそ、日々の選択が未来を大きく変えていきます。
質をみがき続けること、全国に名を馳せる玉緑茶とともに、新たな挑戦であるそのぎ抹茶を、将来の可能性として育てていくこと。
それは「この土地のお茶づくりを次の世代につなげる」ための近道なのかもしれません。

家業を守りながら仲間とともに歩む二人の姿は、そのぎ茶の底力と未来への希望を感じさせてくれます。
読むほどに長崎の“そのぎ茶”が好きになる特別連載「長崎 そのぎ茶ものがたり」。
どうぞ次回以降の記事もお楽しみに。 

取材・文=中村志乃芙、写真=松本靖治、編集=市原侑依

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大山製茶園
https://ooyamacha.ocnk.net/

おのうえ茶園
https://onoue-teafarm.com/

連載第4回は新進気鋭のふたり、「まるせい酒井製茶」の酒井祐志さんと、「近藤農園」の近藤徳重(こんどう のりしげ)さんにお話を伺いしまいた。ぜひご覧ください。

“そのぎ茶と東彼杵町”の魅力を体感できる特別イベント「長崎 そのぎ茶コレクション2026 in 東京」を、2026年1月24日(土)・25日(日)の2日間、東京・丸の内で開催します!

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