海と山に囲まれた長崎・東彼杵町(ひがしそのぎちょう)で生まれる「そのぎ茶」。
本連載『長崎 そのぎ茶ものがたり』では、この地でお茶に携わる人々の声を通して、産地の今とそのぎ茶の魅力をお伝します。
そのぎ茶は、長崎県東彼杵町(ひがしそのぎちょう)でつくられるブランド茶。煎茶とは製法の異なる、蒸し製玉緑茶(むしせいたまりょくちゃ)という希少なお茶です。生産量は、国内のお茶のわずか1%。小規模ながらも全国の品評会で受賞を重ね、お茶好きたちの注目を集めています。
連載第5回は、日本茶の品評会「日本茶AWARD」等で数々の受賞歴を誇る、二人の製茶問屋の対談です。そのぎ茶の新たな可能性を切り拓く二人に、”選ばれるお茶”を生み出すための、技と哲学を伺いました。

記録を塗り替える二人の製茶問屋
一人目はそのぎ茶を語るうえで欠かせない存在、製茶問屋・西海園の二瀬浩志(ふたせ ひろし)さんです。10年連続で「日本茶AWARD」を受賞。うち1度は「日本茶大賞」、3度は「準大賞」に輝くなど、記録的な実績を持ちます。2023年には、なんとティーバッグで準大賞を獲得し、業界の常識を覆しました。

またフランス・パリで行われている日本茶のコンテスト「Japanese Tea Selection Paris(ジャパニーズ・ティー・セレクション・パリ)」では金賞2回、銀賞3回、銅賞3回と、こちらも受賞の常連です。
そして、その二瀬さんが「次の世代を担うキーパーソン」と話すのが、池田茶園の池田亮さん。
1941年創業、茶農家として始まった老舗の4代目です。2017年に先代のお父さんが、日本茶AWARD審査員奨励賞を受賞。バトンを受けた池田さんは、2023〜2025年の3年連続入賞という快挙を成し遂げています。

製茶問屋の仕事とは
――そもそも「製茶問屋」は、どんな役割を担っているのでしょうか?
池田さん「茶農家さんは茶葉の栽培から”荒茶(あらちゃ)”という一次加工までを行い、市場や製茶問屋に卸します。私たちは荒茶を仕入れ、選別・火入れ・合組といった仕上げを行い、販売までを担います。製茶問屋のほか、茶商とも言われます」

二瀬さん「仕入れた荒茶はまだ水分が多く、葉以外にも茎や粉が混じっている状態なので、まずはじめに使用する葉とそれ以外を選別して整えます。そして”火入れ”は、お茶の味を決める最も重要な工程で、温度や時間を繊細に調整します。最後に特徴の異なる茶葉を組み合わせるブレンド作業”合組”で味わいに奥行きを出して、商品となるお茶が完成します」
日本中で”選ばれる”おいしさの秘密
――地域を超えて全国のお茶好き・お茶のプロを強く魅了している両者のお茶。そのおいしさを、どのようにつくり上げているのでしょうか?
二瀬さん「商品によって異なりますが、西海園では、基本的に色と甘みをしっかり引き出すことを大切にしています。例えば火入れは、弱くすると色が鮮やかに表現できますし、強くすると香りが表に出てきます。高級ラインのお茶はしっかり目に火を入れて、焙煎の香りをたっぷりと楽しめるようにしていますよ」

池田さん「池田茶園では火入れを最小限にして、茶葉が持つ味わいを底上げするようなアプローチをしています。父や叔父の隣で学びながら、そんな味わいづくりを身体に覚え込ませてきたので、代替わりして自分で初めて仕上げを担当した年、『変わらずおいしいね』とお客さんに言ってもらえたときは、心の中でガッツポーズでしたね」

池田さん「少しずつ自分の好みも取り入れたりしますが、あまり大きく変えると、池田茶園の味を求めてくださる方たちの期待には応えられません。その塩梅に気をつけながら、池田茶園の味を守り、さらに良くしていきたいと思っています。あと、蒸し製玉緑茶は、飲んだ後まで残る余韻もおいしさの秘訣だと思います」

次の世代へ、お茶の入り口をつくる
極上のお茶をつくり続ける一方で、若い世代の間では、急須でお茶を飲む人が減っていたり、お茶よりもコーヒーを選ぶ人が多い現状です。お茶という文化を次世代につなぐには、どんなアイディアが必要になってくるのでしょうか。
池田さん「若い世代の方にはティーバッグや粉末茶など、手軽に楽しめる商品は欠かせませんね。面倒で手がかかるイメージを払拭し、気軽に求めてくださる方が増えることが一番だと思います」
二瀬さん「まさにその通りです。これまでとは違う視点から、お茶に興味を持ってもらうことも大事な戦略だと思います。西海園ではそのぎ茶キャラメルサンドや、そのぎ茶ふりかけ、そのぎ茶ヌードルなどの『食べるお茶シリーズ』を開発し、販売していますが、若い世代にも興味を持っていただいていますよ。こういった商品をきっかけに、お茶を飲む習慣のなかった方にも、気軽にお茶に触れてもらいたいですね」

世代を超えた絆が生まれ、支え合う産地
――本来は競合であるはずの二人ですが、強い信頼関係を感じます。その絆はどのように育まれてきたのでしょう。
池田さん「実は、うちが製茶問屋になれたのは、西海園さんのお父さんのおかげなんです。父が茶農家から製茶問屋に転換する際、お茶の入札権を得るためにサポートしてくださったと聞いています。世代を超えたつながりがあるんです」

二瀬さん「2023年の日本茶AWARDで、一緒に授賞式に行けたのは、本当に感慨深かったですね。年に数回は東彼杵の製茶問屋仲間7人で研修旅行にも行くんですよ。あちこちに出掛けてはよく学んで、よく飲んで笑って(笑)」
小さな産地だからこそ、競うより支え合う。そんな関係がそのぎ茶のおいしさを底上げしているのかもしれません。

手軽さと文化、その両立を目指して
日本茶AWARDでの受賞をきっかけに、新たな出会いが生まれています。お茶愛好家や小売店がそのぎ茶や蒸し製玉緑茶へ熱視線を送り、取引先は全国へと広がっています。
――そのぎ茶の製茶問屋として、これからお二人が目指すのはどんな未来でしょうか。
池田さん「そのぎ茶の大半を占める蒸し製玉緑茶は、生産量が少なく、ブームになりにくいお茶です。でも、その希少性こそが価値です。限られた生産量だからこそ、一つひとつの商品の完成度を高め、おいしさを極めて、愛好家に“選ばれるお茶”を届けたいと思っています」

二瀬さん「世界的に抹茶ブームが来ていますね。お茶に注目が集まるのはうれしいことですが、その先まで見据えたお茶づくりをしていかなければと思います。急須で淹れて飲む煎茶や玉緑茶などの需要は、どんどん減っています。そんな中、高まる抹茶人気に応えようと、これまで煎茶や玉緑茶用に栽培していた茶葉を、抹茶の原料に転換する動きが、国内で加速しています。この流れが、急須文化を弱めてしまうのではないか、と危機感を持っているのも事実です」

二瀬さん「未来のためには変化に合わせることも大切です。でも一度途絶えてしまえば、戻らないものがあることを、私たちはコロナ禍で学びました。奇跡の1%の”そのぎ茶”を守りたい。”手軽さ”と”文化”の両立を目指し、ティーバッグなど新しい形でお茶の時間をつないでいきたい。そのために私たち製茶問屋ができることは、常に時代を読み、未来を考え、ひたすらおいしいお茶をつくって、お客さんに丁寧に届けることだと思います」

受賞常連、カリスマともいえる二人の製茶問屋が目指すのは、「ブームに捉われず、人々の暮らしに絶えずお茶の時間がある」という未来。その挑戦は今日も地道に、そして力強く続いています。
小さな産地から湧き上がる情熱が、これからの日本茶の風景を静かに変えていくのかもしれない。そんな予感を抱かせてくれる対談でした。
読むほどに長崎のお茶、”そのぎ茶”の魅力が深く味わえる特別連載「長崎 そのぎ茶ものがたり」。どうぞ次回以降の記事もお楽しみに。
取材・文=中村志乃芙、写真=松本靖治、編集=市原侑依
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西海園
https://saikaien.com
池田茶園
https://sonogi-cha.com
連載第6回の「岡田商会」の代表・岡田浩幸さん、営業担当の岡田泰樹(おかだ たいき)さん、そして茶農家「西坂秀徳製茶」の西坂秀徳さんのインタビュー記事もご覧ください。
“そのぎ茶と東彼杵町”の魅力を体感できる特別イベント「長崎 そのぎ茶コレクション2026 in 東京」を、2026年1月24日(土)・25日(日)の2日間、東京・丸の内で開催します!





