【イベントレポート】茶人・日月が主催する茶会「耳味会(じみかい)」が小田原市の松永記念会館で2024年2月25日に開催

近代茶人として有名な松永耳庵(じあん)が晩年を過ごした小田原市にある邸宅・茶室「松永記念館」で、2024年2月25日に茶会「耳味会(じみかい)」が開催されました。
耳味会は、耳庵の名前から一字を取り、静寂の中で聞こえる音を味わう所から名付けられている茶人・日月さんが主催者となって毎年流派関係なくゲスト亭主と共にお客様をおもてなしする茶会です。
第2回目となる今回は、細川三斎流の三尋木崇さんをゲストに迎え、千利休が豊富秀吉の小田原攻め※に同行した際に茶道具を詰めて持ち運んだと言われる「旅箪笥の点前」を、2つの流派で手比べする趣向で行われました。その耳味会の様子をご紹介します。

まず、三尋木崇さんから自身の席について説明がありました。
茶室「無住庵」は、柳瀬山荘内の築200年の農家の古材を用い、耳庵が昭和30年に作った田舎家です。周囲には露地、蹲があり雰囲気のある建物です。

無住庵

「安土桃山時代から江戸時代にかけての武将であり、細川三斎流の流祖である細川三斎(細川忠興)は、小田原征伐時に松永記念館に近い富士山陣場に布陣した記録がありました。そこで私の席では、細川三斎と小田原、旅箪笥にちなんだもてなしをと考え、当時三斎が田舎家でお茶を振舞っていたらと想像し、かしこまらずフランクな田舎家での野点を趣向としました。大名だった三斎とはお道具や設えは比べられないですが、小田原を含む足柄地区だからできる、おもてなしを準備しました」

茶花はこの時期に一番きれいな花と果実を山で探し、寄付きでは地場産の竹を使った竹花入れを使用。
田舎家の壁床前には良弁杉の香合と足柄の天然の柚子が赤松の板にのせられています。

三斎の時代は禅語をあまり掛けていなかったとのことで席中の床は金魚絵に。
現代作家の作品で、この絵から三尋木さんが禅語「小魚、大魚を呑む」の意をのせられました。
「小魚は大きな魚を飲むことはできないが、悟りを開くとそういうものを超越しうる。ということを知りました。以前尊敬する茶友から、家柄もお道具も財もない我々は、流派の知識を深め、心をこめておもてなしすることしかできないと言われたことがリンクし、季節感は違いますが、自らの進むべき道を深め、実践している人たちにあやかれるようにという思いを込めてかけさせていただきました」と三尋木さん。

三尋木崇さん(右)

湯水は、平成の名水百にも選ばれている富士山の湧水を沸かし、お茶は流派のお好みに。
細川家の九曜紋があしらえてある菓子が用意され、野点の気張らないゆったりとした雰囲気で行われました。
続いて、日月さんより今回の席についての説明がありました。

菓子席では、細川三斎から孫の光尚に宛てた消息(手紙)を掛けた日月さん。
「頭痛がするのでお茶を一服ひかせて持ってきてほしいという内容で、これからお茶がある事を暗示しています。茶を薬として飲んでいたのか、お茶狂いでカフェイン中毒になっているのか、はたまた孫にかまってほしい口実なのか…二人の手紙のやり取りから様々な想像が膨らまされます」

書状箱からは雪割草がのぞきます。
「長い間、雪の下で静かに耐え続け、ようやく寒さが和らぎ雪解け水の流れる音が聞こえる頃に咲く山野草です。古くから、書状箱や硯箱、箱蓋などを花入れに見立てて活けたり、歌や手紙と共に贈られていたそうです」と日月さん。

三寒四温の冷え込みで、しとしとと雨音が聞こえる一日となった茶会当日。
雪解けを思わせる真っ白なお粥とお豆腐から、蕗の薹が萌え出る様子を小田原近郊の食材を使って表現した料理が振る舞われました。

茶席の老欅荘は、耳庵が益田鈍翁の影響で昭和21年に小田原に移り住むために建てられた数寄屋建築です。耳庵もこの広間の一角で、訪れたお客様に茶を振舞っていたと伝えられています。
旅箪笥から派生した色紙箱には、歌が書かれています。
「かぐわしき 木の香しなくは 釜の湯の わきて親しき すま居せましや」

老欅荘で茶を点てる日月さん

「小田原は茶の歴史を感じることができる地であり、海や山に囲まれ、少し足を伸ばせば温泉地にもなっており、都会の喧騒から離れ、茶の湯を楽しむのに非常に良い場所だと考えています。耳味会は異なる季節に行い、皆様をおもてなししていきたいと思います」
次回の「耳味会」を心待ちにしたいと思います。


亭主の紹介】

三尋木崇(みひろぎ たかし) 
2011年から細川三斎流を学ぶ。茶の湯を学ぶきっかけは、海外の大型建築計画に従事しているため、日本を意識する機会が多くなったから。細川三斎を足掛かりに利休時代からの茶室や茶の湯の研究をはじめ、たびたび茶会や野点を行う。共通するテーマは、実体験を基に場所に根ざした「人、モノ、思想、風習」を材料とし、「五感を刺激する空間」でおもてなしを行うこと。
https://note.com/mihirogi55/n/n5d5c73c83cbc

日月(じつげつ)
2011年より京都吉田山で古儀茶道藪内流を学ぶ。後に東京に引越すが、⼈間が⾃然の⼀部であることを再認識するために⼩⽥原へ移住。2021年より松永記念館で月釜を開催し、自然が生み出す美しさ、日本独特の美を掬い上げるような茶を目指す。小田原市内、京都、東京で定期的に茶会を開催しています。
インスタグラム https://www.instagram.com/junko.tk0/

写真・山平敦史
https://www.yamahiraku.com/about

※小田原攻めは1590年に豊臣秀吉が小田原北条氏(後北条氏)を滅亡させた戦い。小田原征伐とも呼ばれる。

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